大変時間があいてしまいましたが,この勉強部屋も読んでくれている人がいるようなので,またちょっとずつ更新していきたいと思います.
去年,旅行医学について一度書きましたが,今回はその第二弾です.
テーマは・「安全」な旅行に必要な知識と手段の提供(後編)
です.
特に飛行機での旅行に絞って,注意事項を書かせていただきます.
さて,海外旅行に行こうとするとき,皆様は交通の手段は何を使いますか?
もちろん船を利用する方もいらっしゃるでしょうが,時間的な事も考えると,大部分の方は飛行機を利用しますよね.
と,いうことで,次は飛行機に乗るときの注意事項を書いてみたいと思います.
・飛行機に乗れない人
まず,乗れなければ旅行にも行けません.が,飛行機は気圧の変化があったり,一度乗ったら,「はい,降ります」と簡単にはいきませんよね.
ですので,こういった人は飛行機に乗れませんよという項目を箇条書きにします.
1) 妊婦:36週まで搭乗可,双子では32週まで
出産予定日4週以内は診断書と同意書が必要
出産予定日2週以内は産科医の同乗が必要
2) 新生児:生後7日以内
3) 手術後患者:手術後2週間以内
4) 虚血性心疾患:急性心筋梗塞発症6週以内,不安定狭心症
5) 気胸:気胸治療後2~3週以内
6) 脳卒中:発症4週以内
それぞれの病気がどういうものか,自分がその病気に当てはまるかは,かかりつけのDr.に確認してくださいね.
次に,飛行機には乗れます,が,機内で酸素が必要ですよという人です.
以下に該当する人が,その対象になります.
1) 在宅酸素療法中の患者
2) うっ血性心不全中等度以上の人
3) 狭心症の重症の患者
4) チアノーゼ性うっ血性心臓疾患
5) 原発性肺高血圧症
などなど,ですが,もちろんこれが該当するか,自分で判断できる人はそう多くはないですよね.かかりつけのDr.に相談しましょう.
ただ,この機内酸素の必要度を判定するとても簡単な方法があります.
それは・・・
50mを呼吸困難なしで歩けること
駅,デパートの階段を息切れせずに登れること
→これがクリアできれば機内酸素の必要はありません.
これをひとつの判断基準として,相談してみてください.主治医のDr.が統一診断書を記載すれば,酸素が必要な方も飛行機に乗れます.(ただし,搭乗3日前に手続きが完了している必要があります)
さあ,これで,飛行機に乗ることが出来ますよ.
では,飛行機に乗って注意することはなんでしょうか.
やはり,長期間飛行機に乗ることによる血栓症ですかね.
以前,サッカーの高原選手がなったことでも有名ですね.このときはエコノミークラス症候群なんて呼ばれていましたが,実はこれはファーストクラスであれ,ビジネスクラスであれ,やはりある程度の頻度で起こりますので,ここではロングフライト血栓症と呼ばせていただきます.
・ロングフライト血栓症
これはどんなものかというと,これは、長時間、座席に同じ姿勢ですわったままでいることでひざ裏の静脈の血液が流れにくくなり、血のかたまりができてしまうことによって起こります。この血のかたまりは、筋肉を動かすことによって肺のほうに移動し、肺を詰まらせて呼吸困難を引き起こすこともあるのです。
特に空気が乾燥している飛行機の中では、体から1時間に80ccぐらいの水分が失われます。すると、血液の濃度が上がって、血栓ができやすくなります。 また、機内を立ち歩くのがはばかられてずっと座り続ける人が多く、血の流れがきわめて悪くなることでも、血栓ができやすくなります。長時間のフライトでは 悪条件が重なり、症状が出やすくなるわけです。
では,このロングフライト血栓症を予防するにはどうすればいいでしょうか.
三段階に分けて考えましょう.
Aファーストライン予防策(標準予防策)
→すべての乗客の方が気をつけること
1) 足の運動
・2~3時間に1回は少し離れたトイレまで歩く
・足は組まない,通路側の席を予約する
・睡眠薬を避ける
2) 水分補給(機内の湿度は5~15%:サハラ砂漠より乾燥している.不感蒸発による脱水は1時間80cc,5時間400cc,10時間800cc)
・1時間にコップ半分の水やジュースを飲む
・水,ソフトドリンクの代わりに,アルコールやコーヒーを多飲すると,利尿作用のために脱水になる
Bセカンドライン予防策
→ちょっとリスクが高い人がやったほうがいいこと
1) フライトソックス
これは,圧迫が強いソックスで,膝下までや腿までのものがあります.圧迫することで,血液がよどまないようにするものです.
2) アスピリン
・少量の服用
・ロングフライトの前々日,前日,当日に1日1回の服用
Cサードライン予防策
→これはさらにリスクが高い人用
・出発前に低分子ヘパリン注射
ただしここまで行くとかなり専門的なことになりますから,充分かかりつけ医の先生と相談が必要ですね.
以上をまとめると,
低リスク:
既往歴のない若者,フライト時間6~11時間,肥満
→エクササイズ+水分補給,アスピリン
中等度リスク:
60歳以上,女性,下肢静脈瘤,心不全,フライト時間11時間以上,経口避妊薬,睡眠薬
→ファーストライン+アスピリン+フライトソックス
高リスク:
深部静脈血栓症の既往,肺塞栓の既往,悪性腫瘍,6週間以内の大手術など
→ファーストライン+低分子ヘパリン+フライトソックス
くれぐれも気になる方は,旅行に行かれる前にご相談してくださいね.